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2022/07/16

BOSAI PLUS の防災情報プラス(会報第78号より)


被害想定への想像力と「助かる防災」
~青森県の地震・津波被害想定を受けて

●八戸市よりも想定死者が多い! ”寝耳に水”の青森市、むつ市民

 青森県が去る5月20日、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震などが発生した場合の地震・津波被害想定調査結果を公表しました。それによると、死者は冬の午後6時の発生で最大(最悪)想定となって5万3,000人にのぼり、2021年12月に国が示した試算を1万2,000人上回っています。
 死者数が国の想定を超えたのは陸奥湾岸の浸水域が広がったためで、市町村別で最多死者数は青森市の2万1,000人、太平洋岸の八戸市では1万9,000人。次いで、むつ市4,700人、おいらせ町2,500人、六ヶ所村990人など。
 県は死者の9割以上は津波によるものとし、地震発生から津波第1波が到達するまでの時間は、八戸市新湊で38分、青森市新町で1時間36分、むつ市松原町で2時間40分です。津波の高さは、八戸市は最大26.1m、おいらせ町は同24.0m、むつ市は同13.4m、青森市は同5.4mとなっています。
 今回の調査結果が青森県民にとってとくに衝撃的だったのは、陸奥湾の浸水域の広がりでした。死者が前回調査(2012・13年度「青森県地震・津波被害想定調査」)より、青森市で860人から24倍の2万1,000人、むつ市は560人から11倍の6,300人(冬深夜のケース)に拡大したのです。いずれの市でも陸奥湾の浸水域拡大によって中心部が大規模に浸水する――まさに“寝耳に水”の事態想定となりました。
 青森県外の一般の受けとめも驚きだったでしょう。なにせ日本海溝で発生した津波の”直撃”を受ける太平洋岸よりも、津軽海峡をすり抜けて陸奥湾に流れ込む津波による被害(死者数)が多いからです。しかも津波襲来の時間差もあって太平洋岸より1時間遅れにもかかわらず…。

青森市・むつ市 津波浸水想定図より

●被害想定を正しく怖れる――最大(最悪)想定を念頭に、想像力で備える

 北奥羽地方(青森県南・岩手県北)を主な取材エリアとする地方紙「デーリー東北」は、この調査結果を受けて、「これほどとは…」の見出しで県南地方住民の驚きと戸惑いを表現したいっぽう、八戸市民の「東日本大震災の経験があるから、地震があればすぐ逃げるという意識は根づいている」との声を伝えています。いっぽう、青森県はこの被害想定結果について、死者数が増えたのは想定津波浸水域の拡大に伴うためで、津波情報の迅速な伝達、市民の早期避難行動などの徹底で、死者数は約7~8割減らせるとしています。
 東日本大震災での”想定外”の巨大地震・津波発生の教訓を踏まえて、国は、2013年に南海トラフ巨大地震の被害想定を実施し、死者数最大32万人超、津波高は最大30m超という結果を公表、当時大きな話題を呼びました(国は2019年5月に最新データに基づく「再計算」推計を公表、当初想定に比べて死者数は3割近く減って約23万1,000人)。
 いずれにしてもこれら被害想定はあくまで最大ケースとして整理されたもので、この想定どおりの揺れや津波、被害が予測されたものではないことに留意が必要です。これによって住民が不安を募らせる、避難をあきらめるなどの反応が引き起こされるようでは、被害想定の趣旨に逆行します。国は「東日本大震災の教訓を踏まえ、『なんとしても命を守る』こと、防災対策を検討するために想定」しており、津波被害については早期避難で大きく減らせるとしています。まさに被害想定は「正しく怖れる」ための資料・データです。
 日本防災士機構は「助けられる人から、助ける人へ」を防災士たるべき動機づけとしていますが、防災士が日常活動で地域住民に被害想定の受けとめを啓発するときは、キャッチフレーズとして「『助かる人』になる――被害想定への想像力を持続し、命を守ることに自ら最善を尽くす」を提案します。

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